【第1回】ニュートリゲノミクス

掲載日:2016.12.20

ニュートリゲノミクス(栄養ゲノム学)とニュートリジェネティクス(栄養遺伝学)

とっても大雑把な言い方をすると
「この食品は、遺伝子レベルでみてこんな機能性があるよ」 ということを調べる科学がニュートリゲノミクス。「 あなたの遺伝子はこうだから、こんな食品をとるといいよ。こんな食品は止めたほうがいいよ」ということを調べる科学がニュートリジェネティクス」 です。

日常を健やかに生きるために、食事には大切な役割があることは誰でも知っています。
おばあちゃんの知恵袋的に、これがいいとか、あれがいいとかといって多くの食品が薦められてきました。しかし、その食品の成分が私達の体にどのように、どんな影響を与えるのかということを解明するのが難しかったために、十分な科学的根拠がないといわれてきました。
ニュートリゲノミクス

21世紀に入り私達のもつゲノム(1つの細胞がもつDNAすべて)が解明されました。同時にゲノム解析の技術やプロテオーム(たんぱく質)解析の技術も発達してきて、食品の成分が遺伝子などに働きかけて、疾病の発症や進行を食いとめ健康を維持するメカニズムが解明されるようになってきています。このように食品の摂取に伴って起こる遺伝子の働きを、多面から解析して、食品の機能性を調べる科学をニュートリゲノミクス(栄養ゲノム学)といいます。
例えば、ある食品を継続的に食べた時の、体の中で起こる変化を、遺伝子の受ける影響から調べます。そうすると肥満(太りやすさ)と関係がある遺伝子に影響をあたえたとか、長寿(若さ)と関係がある遺伝子に影響があったということが分かります。そうして、その食品の機能性や安全性の根拠を示すことできるのです。

代表的なニュートリゲノミクスの研究発表には「カロリー制限によって老化を遅らせる」 研究があります。人には長寿(若さ)に関連する遺伝子があり、その遺伝子に食事摂取量が影響を与えるというもので、発表された際は、大変な話題になりました。

また、体質の違いや同じ量の食品を食べてもその効果の程度が人によって違うことにも遺伝子レベルからアプローチできるようになりました。これは、人によってもっている遺伝子がすこし違う、いわゆる遺伝子の多型性、SNP(スニップ=塩基配列の違いを示す一塩基多型)が原因と考えられています。SNPは食品に対するアレルギーや薬の効きやすさの違いを生み出しています。この個人のもつ体質の違い(塩基配列の違い)を解析して、体質にあった適切な食品を選択する科学をニュートリジェネティクス(栄養遺伝学)といいます。

食をめぐる環境が大きく変化し、栄養の偏り、不規則な食事、肥満や生活習慣病の増加などが問題となっています。2005年には、私たち一人一人が生活の基礎となる「食の知識」と「食を選択する力」を身に付け、健やかな食生活を送れるようにという取り組みが、国を挙げて始まりました。「食育」です。ニュートリジェネティクスによる個性にあった食品の選択は、この「食育」に役立つものになるでしょう。

科学は、日進月歩。このような食品と遺伝子の関係やライフスタイルと遺伝子の関係を明らかにしていくことで、皆さんがより健やかな日常を楽しむことができるよう研究を重ね、お伝えしていきたいと願っています。