遺伝子栄養学では食と遺伝子、ライフスタイルと遺伝子の関係を解明する研究を日々行っております。
この遺伝子栄養学の基礎用語では、遺伝子栄養学を知るために必要な言葉や独自の研究をご理解いただくための補足として用語をできるだけ簡潔にご紹介しています。

ATP(アデノシン三リン酸)

細胞のエネルギー源となる物質です。ATPからADPに分解が行われる際に多量のエネルギーがつくられて、生物はこれを利用して活動しています。ATPの合成は主に細胞のミトコンドリアの中で行われます。

アミノ酸

生命の主な部品となるタンパク質を構成する分子です。アミノ酸同士が数珠繋ぎになったものがタンパク質。動物が体内では合成できず、食物として摂取しなければならないものを「必須アミノ酸」 とよんでいて、私達ヒトの場合は、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、トレオニン、リシンの8種類です。

RNA干渉

二本鎖RNAが目的のmRNAを破壊してタンパク質の合成を妨げることです。

アンチエイジング

加齢による身体の機能的な衰え(老化)を可能な限り小さくすることで、いつまでも若々しくいるための活動です。特に中年期以降に生活習慣病、認知症、骨粗鬆症、皮膚老化、更年期障害、老眼、難聴、歯消失などのリスクが高まりますが、これは、遺伝子の変異、細胞機能の低下、酸化ストレスの増加、免疫力の低下、ホルモンレベルの低下などが要因ではないかと推測されています。

SNP(一塩基多型/スニップ)

1%以上の人で、DNAにある1個の塩基が別の塩基に置き換わることです。ゲノムの個人差になり、さまざまな体質の原因になっている可能性があります。

遺伝暗号

タンパク質のアミノ酸の並び方を決めるDNAの塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)配列のことです。遺伝暗号では、3つの塩基が1組で1つのアミノ酸を指定しています。

遺伝子

DNAの中でタンパク質のアミノ酸の並び方を記録している部分が遺伝子です。生命は遺伝子の情報をもとに、タンパク質を合成しています。年齢、ストレス、食事内容などにより遺伝子の発現量は変化し、人体に影響を与えています。また遺伝子は親の特徴を子に伝えるものでもあります。

遺伝子診断

ある病気に関連する遺伝子変異をその人がもつか、ある薬の作用・副作用がその人に出やすいか、遺伝的体質(肥満・高血圧・薄毛など)がどうかを調べることです。病気の診断や予防に役立ちます。

イントロン エクソン

遺伝子の部分のことでイントロンはタンパク質のアミノ酸を指定しない部分、エクソンはアミノ酸を指定する部分です。

核酸

核酸は、ヌクレオチドがつながった鎖状の高分子で、酸性を示す「デオキシリボ核酸(DNA)」 と「リボ核酸(RNA)」 の2種類です。ほとんどの生命はDNAに遺伝情報を記録して、これを遺伝物質としています。RNAはDNAに記録された情報をもとに、タンパク質をつくります。

核タンパク質(プロタミン・ヒストン)

細胞核内でDNAがまきつくように結合しているタンパク質です。DNAはこのヒストンと共にヌクレオソームという構造をつくり、クロマチンというひも状の繊維を形成して核内にあります。体細胞でヒストンというタンパク質は精細胞ではプロタミンというタンパク質に置き換わります。
栄養素のプロタミンは、DNAの保護、抗菌作用、インスリンの分泌促進作用、肥満防止作用、免疫向上作用、新陳代謝促進作用、飲酒にによるコレステロール、乳酸の上昇抑制作用などが示唆されています。

活性酸素(Reactive Oxygen Species)

エネルギー産生、侵入異物攻撃、不要な細胞の処理、細胞情報伝達などに際して生産される酸化力の高い酸素です。一重項酸素、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシラジカル 過酸化水素、ヒドロペルオキシラジカルがあります。本来は有用なものですが活性酸素は反応性が非常に強く、体の構成成分(核酸、蛋白質、脂質など)を変性させ生活習慣病や、老化促進のリスクを高める可能性が基礎研究により示されています。

グルタチオン

グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸のトリペプチドです。動植物の組織に広く存在し、体内でも合成され、肝臓での解毒機構や細胞内でミトコンドリアがつくりだす活性酸素の除去にかかわる酸化還元反応に関与しています。
栄養素としては、肝臓での解毒作用、細胞老化抑制、認知症予防などが示唆されています。

ゲノム

生物の持つ遺伝子(遺伝情報)全体です。

ゲノム解析

細胞に含まれる全DNAの配列を決め、この配列に含まれる情報を引き出して、生命活動に携わる機能を一度にすべて明らかにすることです。それらの働きを総合的に調べ、生物のもつ“生きる仕組み”を理解するものです。

抗酸化

活性酸素による行き過ぎた酸化反応を抑える作用のことです。活性酸素は反応性が非常に強く、体の構成成分(核酸、蛋白質、脂質など)を変性させて、がんや生活習慣病のリスクを高める可能性が基礎研究により示されています。体には活性酸素の消去システム=抗酸化システムがありますが、加齢とともにシステムが衰えますし、活性酸素は放射線や紫外線、喫煙、飲酒、過度の運動、食品添加物、農薬、排気ガスなどの環境因子からもつくられるため、活性酸素に対する対策が望まれています。

恒常性(ホメオスタシス)

時間とともに変化する遺伝情報や環境情報に対し、体がもつ内部環境を一定に保とうとする性質のことです。

酵素

体内のさまざまな化学反応を円滑に進めるタンパク質です。体の中の化学反応のほとんどすべては、酵素によって助けられています。どの反応にどの酵素が働くかは、厳密に決まっています。よく知られる酵素に、でんぷんを分解するアミラーゼや、タンパク質を分解するペプシンがあります。

コドン

1つのアミノ酸を指定する3つ1組の塩基配列のことです。64種類あるコドンについてアミノ酸との対応関係を示した表をコドン表(遺伝子暗号表)といいます。

コントロール(対照)

研究を行う際、効果を確認したい物質の効果を明らかにするため比較判断するために設定するあらかじめ結果が分かっている試料群のことです。

サルベージ合成・デノボ合成

核酸の体内合成方法です。主に肝臓でアミノ酸などから核酸を合成する方法がデノボ合成で、食べ物の細胞にある核酸がヌクレオシド(ヌクレオチドからリン酸がはずれたもの)などの核酸成分に分解・吸収されたものが体内で再び核酸に合成される方法がサルベージ合成です。デノボ合成では、サルベージ合成よりも合成のためのエネルギーが多く必要になります。また加齢により肝臓機能の低下や食事量の低下によって、体内の核酸量が減少します。

酸化ストレス

生体内で生成される活性酸素群の酸化損傷力と抗酸化力との差です。抗酸化力は、スーパーオキシドディスムターゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンリダクターゼ、カタラーゼといった酵素群、酵素活性を与える微量ビタミン・ミネラル群などで構築される抗酸化ネットワークによりなっています。

真核細胞

生物を構成する細胞には、核膜で覆われた細胞核をもつ真核細胞と細胞核を持たない原核細胞があります。植物を含むほとんどの生き物の細胞は、真核細胞で私達ヒトの体も真核細胞で成り立っています。真核細胞には、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、リソソームといった細胞小器官があります。真核細胞ではミトコンドリアがエネルギー源をつくっています。

タンパク質

生命の主な部品のひとつです。アミノ酸が複数つながったものです。遺伝子にある情報を生体の中で実際に具体化し、機能させています。さまざまな働きをするタンパク質があって、人の体内には、約10万種類のタンパク質があるといわれています。 筋肉や体の中にある酵素、ホルモン、免疫抗体などもタンパク質でできています。

Th1(ヘルパーT1細胞)とTh2

花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支ぜんそくなどのアレルギーに関係する主に血液中にある白血球のリンパ球細胞です。Th1細胞とTh2細胞のバランスがTh2細胞側に傾くと免疫が過剰反応を起こします。

DNA(デオキシリボ核酸)

2本の鎖が結合し、らせん状にねじれた高分子です。A(アデニン)T(チミン)G(グアニン)C(シトシン)の4種類の塩基を使って生命の遺伝情報を記録しています。DNAは線状で、ヒストンというタンパク質に巻きつき、クロマチンとなって核内にあります。細胞が分裂中期に入るとクロマチンは染色体とよばれる構造をとります。
栄養素としては、新陳代謝の促進作用、免疫向上作用、記憶力の改善作用、老化防止作用、抗疲労、持久力の向上、更年期障害の改善、抗アレルギー作用、腸内環境改善作用、肥満予防作用などが示唆されています。

DNAシークエンサー

DNAの塩基がどのような順序で並んでいるかを自動的に読み取る装置です。

DNA複製

同じ遺伝情報を持つDNAをもうひとつつくることです。もとのDNAの1本鎖と新しく合成された1本鎖とからなるDNAが2つできます。

DNAマイクロアレイ(DNAチップ)

細胞でどのような遺伝子がはたらいているかを、まとめて調べられる実験装置です。様々な配列をもつ微量のDNAをスライドガラスやシリコン、ナイロン膜などの小基板上に高密度に整列してのせ、固定化したもの。マイクロアレイを用いると数千から数万種といった規模の遺伝子発現を一枚の基板上に同時かつ網羅的に観察することができます。1回の実験で膨大な量の遺伝子発現データを得られる画期的テクノロジーで、得られた結果を解析することで、様々な生命現象(発生、分化、増殖、癌化、老化など)に関わる遺伝子発現の理解に役立てられます。

テーラーメイド医療

個人のゲノム情報、個人の体質の違いに合わせて行われる医療のことです。

転写

DNAにある遺伝子の情報をmRNAに写し取ることです。

二重盲検試験(DBT:Double Blind Test、Double Blind Study)

プラセボによるプラシーボ効果(思い込み効果)を除去するために、試験を実施する人にも被験者にもどちらが、
薬効のある「被験薬」でどちらが、薬効の無い「プラセボ」であるか、わからないようにして、治験を進める方法です。
「二重盲検」とは、各被験者に割り付けられた試験を、被験者及び試験を実施する人だけでなく、治験依頼者、
被験者の試験や臨床評価に関係する治験実施者のスタッフも知らないことを意味しています。

ニュートリゲノミクス

栄養素が遺伝子の中のタンパク質、代謝物などに対してどのように影響するかを調べる手法のことです。

ヌクレオチドプール

DNAとRNAの前駆体、さらにシグナル伝達、エネルギー伝達、代謝制御などのメディエーターとして機能するヌクレオチドの供給源です。

ノックアウトマウス

目的の遺伝子がはたらかないよう遺伝子を破壊したマウスです。目的の遺伝子が本来どのような働きをしているのか、固体レベルで調べることができます。

8-OHdG(8-ハイドロキシ-2‘-デオキシグアノシン)

DNAの構成因子デオキシグアノシン(dG)が活性酸素などにより酸化されて生じる酸化物です。生体内では修復酵素などによって正常な塩基と入れ替わり異物として切り出され、代謝されずに血液を経て尿中に排泄されます。

ヒト3次元培養表皮モデル

実験動物による試験の代替材料です。表皮層と真皮層の2層からなりヒト皮膚に類似した性質をもつもの。生体内と近い条件でさまざまな試験を行えます。

ヒトシグナル伝達診断

当研究所の研究で初めて可能となった診断法です。食品によるシグナル伝達の方向やそのシグナルの強さの程度を診断し、健康・美容・医療の分野で役立てられる技術です。

PCR法(polymerase chain reactionポリメラーゼ連鎖反応法)

少量のDNAを短時間で大幅に増幅させる手法です。1983年キャリー・マリスは、PCR法を確立し、1993年にノーベル化学賞を受賞。現在では、DNA診断、DNAクローニング、細菌やウイルスの検出、さまざまな生物のゲノム決定などの幅広い分野で利用されています。

ビール酵母

ビールの製造過程でアルコール発酵を行う酵母です。アミノ酸、ビタミンB群、各種ミネラル、食物繊維などバランスよく含んでいます。特にRNAが豊富です。またこの酵母の栄養成分のひとつであるグルタチオンは、体内では抗酸化や肝機能改善作用が示唆され、美肌やアンチエイジングのサプリメントにも使われています。

プラシーボ(プラセボ)

偽薬のこと。研究上では、効果を確認したい本物の物質の効果を明らかにするため、研究に参加したコントロール群になる人に本物の物質に似たもの渡し使用してもらう。プラシーボ効果とは、特に効果のない物質をとったにもかかわらず、症状が回復したり、悪化したりする現象のことです。

ポリアミン

細胞内にあるアミノ基が2つ以上結合した直鎖脂肪族炭化水素の総称です。代表的な私達ヒトのポリアミンにプトレシン、スペルミジン、スペルミンがあります。ポリアミンは核酸と複合体を形成し、生体に影響をします。
栄養素としては、細胞増殖促進作用、免疫向上作用、DNAの構造維持、老化防止作用、タンパク質合成促進作用、抗アレルギー作用、滋養強壮作用、抗動脈硬化作用などが示唆されています。

ミトコンドリア

ほとんどの細胞に含まれる細胞小器官で、エネルギーつくりだす(電子伝達系によるATP産生)器官です。

免疫

体に侵入する異物を取り除き、自分自身を守るしくみです。鼻毛や涙なども外から体内に侵入しようとする異物を防御する免疫システムの1つ。体に侵入した異物に対しては、白血球(マクロファージ、顆粒球、B細胞、T細胞、NK細胞など)からなる免疫システムがはたらきます。

有意差

確率的に偶然ではなく意味のあると考えられる差のことです。一般的にp<0.05が使われ、95%の確立で偶然ではない意味のある差であることを示しています。

予防医学

病気を予防し、生命を延長し、身体ならびに精神の健康と能力を増進する科学と技術のことです。一般的には、生活習慣を改善することにより疾病の発症や進行を予防する未病に対する医学的アプローチを意味しています。

RNA(リボ核酸)

鎖状の高分子で、DNAの情報をもとにタンパク質を合成します。役割によって、m(メッセンジャ)t(トランスファー)r(リボソーム)などに細分化された名前があります。
栄養素としては、脳の働きの活性化、細胞賦活作用、免疫増強作用、過酸化脂質形成抑制作用、鉄の吸収抑制作用、腸内フローラ改善作用、脂質代謝改善作用などが示唆されています。